不正出血や月経不順といった子宮のトラブルは女性に特有のものですが、子宮がんと呼ばれるトラブルが隠れている場合があります。
特に「子宮頸がん」と「子宮体がん」は、どちらも子宮にできるがんの名称で、限局した病巣から浸潤し、子宮の外へと拡大するおそれがあるため、早い段階で検査・治療を行うことが大切です。
この記事では、子宮頸がんと子宮体がんの特徴や違いを取り上げながら、子宮頸がんの原因や細胞診と呼ばれる検査の分類について紹介します。再検査や精密検査を必要とするケースも紹介しています。
子宮頸がんと子宮体がんの違い
子宮頸がんは、膣から続く子宮の入り口部分にできるがんのことです。一方、子宮体がんは子宮の体部にできるがんの名称です。
子宮体部は子宮の上部、子宮頸部は子宮の下部につけられた名称です。どちらも妊娠・出産にかかわる子宮の病気で、異形成からがん化すると子宮頸がん・子宮体がんと呼ばれます。
なかでも子宮頸がんは、子宮がん全体の約6割を占める病気です。子宮頸がんは、どのような原因によって引き起こされるのでしょうか。
子宮頸がんの原因
子宮頸がんは、病原ウイルスであるHPVウイルス(Human papillomavirus:ヒトパピローマウイルス)の感染によって発生する病気です。
HPVウイルスは皮膚や粘膜の上皮細胞に感染するウイルスで、100種類以上が発見されています。主に性器接触によって感染し、膣や子宮だけではなく口腔内や喉にも感染します。
子宮体がんは女性ホルモンの一種であるエストロゲンの長期的刺激によって引き起こされることが多い一方、子宮頸がんは外部からのHPVウイルス感染が原因となるため、性行為の経験がある方やパートナーがいる方は、定期的な検診が必要です。
子宮頸がん細胞診の分類
婦人科では、子宮頸がんの有無を問診・視診・細胞診によって調べます。結果から異常がある、または異常の疑いがあると判断された場合は、再検査として精密検査へ進みます。
細胞診は、検査対象となる部位の細胞をわずかに採取し、病理医が診断を行います。ベセスダ分類と呼ばれる方法では次のとおりに分類されます。
検査結果 |
分類 |
推定される病理(診断) |
陰性(異常なし) |
NILM |
非腫瘍性所見 炎症 |
意義不明な異型扁平上皮細胞 |
ASC-US |
軽度扁平上皮内病変疑い |
軽度扁平上皮内病変 |
LISL |
HPV感染 CIN1 |
HSILを除外できない異型扁平上皮細胞 |
ASC-H |
高度病変疑い |
高度扁平上皮内病変 |
HSIL |
CIN2 CIN3(高度異形成)・CIN3(上皮内癌) |
扁平上皮癌 |
SCC |
扁平上皮癌 |
細胞検査では、5つの段階に分けて細胞を分類します。異常なしの状態から、異常なしと疑いありの中間に位置するASC-USへ至ります。ASC-USの時点でHPVウイルスによる影響があるか検査をしなければなりません。
再検査や精密検査が必要なケース
再検査や精密検査が必要なケースとして、「ASC-US」「ASC-US以外の異常」「腺細胞の異常」に分けることができます。それぞれのケースを詳しくみていきましょう。
ASC-US
ASC-US(アスカス)は、細胞が正常な状態と「軽度異形成」の境目にあり、判断が難しい状態を指します。
NILM(異常なし)からは進行しているが、LISL(軽度扁平上皮内病変)には至っていない場合の分類です。
何らかの原因で細胞に変化がみられても、すぐに異常とは判断しにくい場合があります。
HPVウイルスとの関連があるのか、さらに精密な検査が必要です。
子宮頸がんは、子宮頸がん細胞の約8割を占める扁平上皮系に多く発生します。病変は次のように分類され、ASC-USもこの分類に含まれています。
関連記事:ASC-USとは?ASC-USの原因や子宮頸がんとの関連について
ASC-US以外の異常
ASC-USがさらに進むと、異形成と呼ばれる細胞の異常がみられます。分類には次のようなものがあります。
【LISL】
軽度扁平上皮内病変という分類で、「CIN1(軽度異形成)」とも呼ばれます。扁平上皮細胞の下3分の1以内に異形成があり、留まっている状態です。ただし、HPVウイルスとの関係などを調べるために精密検査が必要です。
【ASC-H】
CIN2(中等度異形成)やCIN3(高度異形成または0期の子宮頸がん疑い)か正常かの判断がつきにくい状態です。
高度病変疑いとして、精密検査が必要です。
【HSIL】
CIN2(中等度異形成)やCIN3(高度異形成または0期の子宮頸がん疑い)がある状態です。
精密検査を受ける必要があります。
【SCC】
扁平上皮癌(子宮頸がん)の疑いがあるときの分類です。
すでにHSILから進行していますので、浸潤がんに進まないためにも、早期に対処することが大切です。
腺細胞の異常
子宮頸がんの中でも腺細胞といわれる細胞の異常のときにこの結果がでます。
正常な場合もありますが、子宮頸がんが隠れている場合もあります。精密検査が必要です。
精密検査の内容と費用の相場
精密検査は、次のような検査が行われます。
【検査内容】
- HPV検査
- コルポスコピー検査
検査の特徴や目的、費用について確認していきましょう。
HPV検査
子宮頸部の粘膜から細胞をわずかに採取し、HPVウイルスに感染しているかを調べる方法です。
費用の目安は次のとおりです。
【費用】
- ハイリスクHPV検査:約1,500円〜(3割負担)
- 子宮頸部細胞診+ハイリスクHPV検査:約8,000~10,000円(3割負担)
- HPV型判定検査:約17,000〜20,000円(保険適用外)
※いずれも税不明
HPVには100種類ほどの型が存在し、ハイリスクHPVと呼ばれる、子宮頸がんの原因となるウイルスを調べる検査も行われています。(※)
HPV検査には「グループ検査」と「型判定検査(ジェノタイプ判定)」の2種類があり、グループ検査では子宮頸がんを引き起こす13〜14種類のHPVについて調べます。ただし、13〜14種類のいずれかに感染しているかどうかを判定するもので、何型に感染しているかを調べることはできません。
型判定検査(ジェノタイプ判定)は保険適用外のため、自費負担になります。ただし、細胞診でASC-US(軽度扁平上皮内病変の疑いあり)と診断された方や、人間ドッグでの細胞診で再検査になった方は保険適用になる場合があります。
※参照元:J-STAGE「HPV感染病変の段階的管理におけるHPVジェノタイプの意義と 免疫の関与について」
コルポスコピー検査
コルポスコピー検査は、コルポスコープ(膣拡大鏡)という機械で細部を観察する検査です。
費用の目安は、3割負担の保険適用で約5,000円(税不明)前後ですが、自費診療として行う場合は約15,000円となります。
「生検組織診断」「生検(せいけん)」とも呼ばれ、子宮頸部の組織を摘んで採取し、病理医が診断を行います。
細胞診よりも深い部分の細胞を採取することで、HPVの感染状況を精密に調べられる方法です。
生検で診断が確定しない場合は、病変を切除してさらに詳しく診断を行います。
「円錐切除術」と呼ばれる方法で、約5〜30分の小規模な手術ですが、静脈麻酔や局所麻酔をかけて実施します。
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子宮頸がんの精密検査を受ける病院の選び方
子宮頸がんの精密検査を受けるときは、次のポイントを押さえて病院を選びましょう。
【ポイント】
- 子宮頸がん専門の病院であるか
- 通いやすい場所にあるか
- 医師との相性は良いか
- 費用は適切か
どのようなポイントに注意して選べば良いのでしょうか。
子宮頸がん専門の病院であるか
子宮頸がんは、子宮頚部にできる病気です。検査や診断の実績が豊富で、正しく診断できる医師が在籍する専門の病院を選びましょう。
専門性を確認する方法として、日本婦人科腫瘍学会への所属の有無が一つのポイントになります。専門医や認定医であることや、治療実績が豊富であるかといった部分を確認しましょう。
子宮がんには子宮体がんや卵巣がんなど、さまざまながんの種類があります。細胞診だけでは確認できない精密検査も実施できる病院を選びましょう。また、頸がん検査に適した設備が整っていることも一つの判断基準になります。
個室が用意されている、プライバシーへ配慮されている、女医や女性看護師による対応が受けられるといった配慮も病院選びでチェックしたい部分です。
通いやすい場所にあるか
初診から検査・診断を受けるまでには複数回来院する必要があり、その後も1,2年おきに検診を受ける必要があるため、自宅や職場から通いやすい場所にある病院を探しましょう。
小さなお子さんがいる方や車いすなどの福祉用具を使用している方、妊娠中の方も、無理なく通える病院をチェックしてみてください。
公共交通機関や自家用車で通いやすいこと、周辺環境や駐車場の有無・広さをチェックして、定期的に通院できる病院を選ぶことをおすすめします。
医師との相性は良いか
子宮頸がん検診ではデリケートな部位を調べるため、医師との信頼関係やコミュニケーションのとりやすさを考慮したいところです。
検診は複数回繰り返して行われ、定期的に経過観察を行うこともあります。相談しやすく安心感のある医師を選ぶことが大切です。
費用は適切か
検査のなかには自費診療のものもあります。検査を受ける病院のホームページで料金体系や料金の目安を確認し、記載がなければ病院へお問い合わせください。
細胞診の分類や精密検査の内容・費用をチェック
今回は、子宮がんの種類と子宮頸がんの特徴、検査の内容や費用の目安について紹介しました。
子宮頸がんは、女性特有のがんとして知られており、20代の若年層にも罹患者がいる病気です。ゆっくりと進行するため、定期的な検査が必要です。
がん化する前の段階で発見できれば、早期に治療を開始できます。
かかりつけの病院は子宮頸がんや子宮体がんに関する実績が豊富な専門医を選び、気になる症状は早めに相談することをおすすめします。
監修者
院長
清水拓哉
経歴
- 杏林大学医学部卒業
- 筑波大学附属病院初期研修
- けいゆう病院後期研修
- 横浜総合病院などで勤務した後に開業
資格
- 日本産婦人科学会専門医
- 産婦人科内視鏡技術認定医
所属学会
- 日本産婦人科学会
- 日本産婦人科内視鏡学会
- 日本子宮鏡研究会
手術実績(通算)
- 腹腔鏡手術・700件以上
- 開腹手術・150件以上
- 帝王切開・300件以上
- 分娩(経腟分娩)・1000件以上