低用量ピルは避妊や月経痛の緩和に用いられる薬ですが、服薬できる人は健康で持病がなく、40歳以下で喫煙していない方が安全に内服できるなど、いくつかの条件があります。
条件を満たさない場合は、代替薬として「ジエノゲスト」と呼ばれる月経困難症治療薬が処方されることがあります。
この記事では、低用量ピルの代わりに服用されているジエノゲストについて、特徴や低用量ピルとの違い、副作用やよくある質問を紹介します。
内服方法と服用する期間も解説していますので、ぜひチェックしてください。
ジエノゲストとは
ジエノゲスト(ディナゲスト®)は、月経痛や子宮内膜症などによる痛みの改善に用いられる保険適用のホルモン剤です。
月経周期に関わる女性ホルモンであるプロゲステロン(黄体ホルモン)と同じようにはたらき、卵巣からの排卵を抑制し、月経を起こさないようにする薬です。
月経を抑える作用のほかにも、子宮内膜に直接作用して、子宮内膜が増殖しないように抑制します。そのため、月経痛やその他の痛み(下腹部痛・性交痛・腰痛・排便痛)などの改善が見られる場合があります。
ジエノゲストにはエストロゲンが含まれていないため、エストロゲンを含む薬とは異なる作用があり、喫煙習慣や片頭痛をもっている方でも服用できます。
ただし腫瘍やその他の原因による異常出血があるときや、腺筋症・筋腫・粘膜下筋腫・乳がんをお持ちの方は主治医の判断によって服用禁止となる場合があります。
従来は、子宮に関する症状の治療に低用量ピルが用いられてきましたが、血栓症のリスクがあるため体質や既往症によっては服用できないケースがありました。
高齢の方もエストロゲン作用のある薬は服用できませんが、ジエノゲストはエストロゲンが含まれていないため、低用量ピルに代わる選択肢となります。
ジエノゲストと低用量ピルの違い
ジエノゲストと低用量ピルは、副作用や体への影響から6つの違いがあります。どのような違いがあるのか、詳しくみていきましょう。
血栓症のリスクが低い
低用量ピルは、女性ホルモン・エストロゲンの作用により血栓症のリスクが高くなっています。
個人差はありますが、低用量ピルを服用してからは、服用していない人よりも2〜3倍ほどリスクが上昇するともいわれています。
低用量ピルによる血栓症のリスクは妊娠中や出産前後よりも低いとされていますが、座りっぱなしや立ちっぱなし、水分不足などでエコノミークラス症候群のような血栓症の危険が高まるため注意が必要です。
ジエノゲストは血栓症のリスクが一般的に低いとされていますが、個人差があるため医師に相談してください。
月経がなくなる
低用量ピルは1日1回の内服のみで効果が期待できますが、こまめな休薬が必要であり休薬期間中に月経が訪れるため、完全に月経を止める薬ではありません。
ジエノゲストは1日2回の内服が必要ですが、休薬せずに服用を続けることで排卵が抑制され、月経が止まります。
月経による痛みや不快感がなくなり、さらに子宮内膜が厚くならないため、子宮や卵巣の保持にもつながります。
PMSが起きない
低用量ピルは月経痛や排卵痛、PMSといったさまざまな症状に効果が期待できるとされている薬です。
ただし、休薬中に月経を止める作用はないため、休薬期間にはPMSが通常どおり訪れる可能性があります。
ジエノゲストは排卵を抑制する作用があり、服用を続けることで月経やPMSの症状が軽減される場合があります。
PMSの症状に悩んでいる方や、月経前後の不快感が続く方も服用できます。
ただし、更年期などホルモンの分泌に何らかの変化がある場合は、ジエノゲストだけで効果が現れにくいケースもあります。
その場合は主治医に相談し、診察を受けたうえで治療方法の変更を検討してください。
鎮痛効果が高い
ジエノゲストは、子宮内膜症の病巣にはたらきかけ、子宮内膜の周期的な増殖を抑制します。
月経がなくなると、それにともなう痛み(月経痛やPMSによる不快感)も抑えます。
さらに、ジエノゲストは月経時以外の痛みにも効果があり、病巣の増殖を抑制することで、下腹部痛・腰痛・性交痛・排便痛の緩和も期待できます。
子宮内膜症を患っていない方にとっても、月経痛やPMSにともなう不快感を抑制するので、周期的な月経の痛みに悩む方に適した薬といえるでしょう。
低用量ピルも月経痛や排卵痛、PMSに効果がありますが、血栓症のリスクや服用できる人が限られることに注意が必要です。
吐き気が出にくい
低用量ピルは副作用として頭痛や吐き気があるといわれています。
個人差があり、必ず副作用が出るというものではありませんが、飲み始めてから数ヶ月程度が経過しなければ落ち着きにくいデメリットがあります。
ジエノゲストの副作用として、ほてりや不正出血が報告されていますが、吐き気が出る確率は比較的低いとされています。
個人差がありますが、頭痛についても同様に確率として低いため、低用量ピルで気分が悪くなりやすい方でも服用しやすい薬です。
避妊効果は弱い
低用量ピルはさまざまな種類があり、体質や体調をみながら体に適した種類を選べます。
生理痛や排卵痛の抑制、PMSの軽減や避妊にも使われており、避妊効果を目的として服用するケースも多くみられます。
一方、ジエノゲストは月経を抑制する効果はありますが、避妊だけを目的にすることはできません。
避妊が必要な場合は他の方法を検討する必要があります。
低用量ピルは避妊効果が認められている薬です。避妊自体を目的とする場合は、医師と相談のうえ低用量ピルの服用を検討しましょう。
ジエノゲストの副作用
ジエノゲストは月経困難症治療剤として用いられる薬で、医師の診断にもとづいて処方されます。そのため、「体調が良くなってきた」と自己判断によって服用を止めてしまうと、体調が悪化することがあります。
ジエノゲストの服用中に注意したい副作用は次の3つです。(※1)
【不正出血】
不正出血は、ジエノゲストの主な副作用として知られています。月経ではないのに出血が持続する、大量の出血があるというケースです。
ジエノゲストには子宮内膜を偽脱落膜化させる作用や、エストロゲンの上昇を抑える作用があるため、内膜が薄くなり剥がれやすくなり、不正出血が起きると考えられています。
月経時以外に出血がみられたら、すぐにかかりつけの医師や薬剤師に相談してください。(※2)
【貧血様症状】
月経時のような貧血症状も、ジエノゲストの副作用として知られています。貧血のような症状とあわせて体のだるさ・めまい・頭痛・耳鳴り・動悸・息切れといった症状が現れる場合もあります。
ふらつきなどが起きたときは不正出血の有無にかかわらず医師や薬剤師に連絡してください。
【アナフィラキシー】
アナフィラキシーとは、体に入った物質が異物として認識され、アレルギー反応によって全身性に症状が現れる状態です。
薬を服用してから喉や全身のかゆみ・じんましん・動悸・息苦しさ(息切れ)・ふらつきがみられたときは、すぐに使用を中止してください。
薬が体に合わない場合は、ジエノゲスト以外の治療方法を検討します。その場合も、医師と相談のうえ他の治療方法を選択してください。
【その他の注意点】
ジエノゲストを服用する際は、指示された用法・用量を守りましょう。それ以外の薬と飲み合わせる場合は、前もって医師や薬剤師に相談が必要です。
2回分を一度に服用すると、不正出血や重篤な貧血などの副作用が起こる可能性があります。1錠を2つに割るような飲み方も避けてください。避妊は、ホルモン性避妊薬以外の方法を選択してください。(※3)
※1参照元:独立行政法人医薬品医療機器総合機構「ジエノゲスト錠 0.5mg「モチダ」」
※2参照元:持田製薬株式会社「ディナゲスト投与中の不正性器出血について」
※3参照元:一般社団法人くすりの適正使用協議会「くすりのしおり ジエノゲスト錠0.5mg「モチダ」」
ジエノゲストの内服方法と服用期間
ジエノゲストは12時間ごとに、1日2回服用します。水なしでも服用できますが、唾液で錠剤を湿らせてから飲み込みます。
食前食後にかかわりなく服用できるので、8時に起床する方は起床直後に1錠飲み、12時間後の20時に食事の前後で服用するといった飲み方が可能です。
妊娠中の方は服用できません。妊娠していないことを確認する目的もあり、月経周期の2〜5日目から服用を開始してください。
飲み忘れを防ぐ方法
ジエノゲストは1日に2回の服用が推奨されているため、習慣化が大切です。飲み忘れるおそれがあるときは、次の方法がおすすめです。
【飲み忘れない方法】
- 手帳やシートにチェックする
- 服薬アプリで履歴を管理する
- 専用のピルケースなどを使う
「起床直後と食事の後」など決まった習慣として定着すれば管理の必要はありませんが、スケジュールや1日の過ごし方が不規則な日には飲み忘れてしまうおそれがあります。
身近な方法として、手帳やシートを使ってその日の服薬履歴をチェックすると良いでしょう。スマートフォンで記録などをつける場合は、服薬アプリも活用してみてください。
1週間分や1か月分のピルケースやピルカレンダーを使うこともできます。事前に錠剤を1日ずつ振り分けておけば、薬の紛失や置き忘れ、飲み忘れを予防できるでしょう。
それでも飲み忘れた場合は、気付いた時点で服用してください。「8時と20時に飲む予定だったが1錠目を飲み忘れて4時間過ぎてしまった」という場合は、お昼の12時に1錠目を飲み、2錠目は通常どおり20時に服用します。
2回以上飲み忘れた場合は、その日の服用を1錠にしてください。(※)
※参照元:一般社団法人日本医薬情報センター(JAPIC)「ジエノゲスト錠1mg「ニプロ」」
ジエノゲストの治療費
ジエノゲストの処方にかかる費用は、1ヶ月分で1,500円前後です。
実際の費用は、薬代に初診料や再診料、検査費などを含めて計算します。全体にかかる費用は、一人ひとりの状況や既往症の有無、必要な検査によって異なります。
子宮内膜症治療以外でのジエノゲストの使用法
子宮内膜症の治療以外にも、ジエノゲストは月経困難症や過多月経の治療に使用されるケースが一般的です。
ジエノゲストは、卵巣から分泌される女性ホルモン・エストロゲンの分泌を抑える作用があり、排卵を止める薬ではありません。
しかし、月経にともなう痛みや不快感を和らげる効果が期待できます。
また、体調や血栓症のリスクにより低用量ピルを服用できない方も、ジエノゲストが代わりの選択肢となります。
すでに低用量ピルを服用し、体に合わなかった経験をもつ方に限られるため、詳しくは医師や薬剤師にご相談ください。
ジエノゲストに関するよくある質問
ジエノゲストに関する質問として、やめるタイミングや不正出血の問題、ピルとの選び方などが挙げられます。
ここからは、よくある質問について詳しくみていきましょう。
ジエノゲストをやめるタイミングはいつですか?
ジエノゲストをやめるタイミングは、大きく分けて次の3つです。
【ジエノゲストをやめるタイミング3つ】
- 妊娠を希望するとき
- 閉経の前後
- 医師の判断によるとき
妊娠を希望する場合は、排卵を抑制する必要はないためジエノゲストを中断します。
また、医師の判断でジエノゲストが合っていない、他の薬に変更する必要があるときも、ジエノゲストを服用せず他の方法に切り替えてください。
女性は50歳前後で閉経を迎えます。閉経すると月経は完全になくなるため、ジエノゲストを服用する必要はありません。
「不正出血が多い」と聞きましたが本当ですか?
ジエノゲストの副作用である不正出血は、服用してから子宮内膜が剥がれやすい状態になることで発生しやすくなります。
出血の程度には個人差があるため、服用後の体調変化について様子をみることが大切です。
服用してからしばらくは通常の月経からそれ以上の出血が起こりやすくなるため、不正出血によって貧血やその他の体調不良があるときはかかりつけの病院に相談してください。
ジエノゲストとピルはどちらを選べばよいですか?
ジエノゲストとピルは、服用する方の体調や既往症、適応といった細かい状態を確認して処方されます。
希望しても必ずその薬が選べるとは限らないため、よく話し合って治療方針を決めるようにしてください。
避妊効果を重視する場合は低用量ピルを選択できます。
ただし、血栓症のリスクがある方は服用できない場合もあります。
ジエノゲストは血栓症のリスクが少ない薬ですが、避妊効果が低い点や1日2回の服用が必要といった違いがあります。
ジエノゲストはピルが合わない人にも適している
今回は、ジエノゲストの特徴やピルとの違いについて紹介しました。
さまざまな事情によって低用量ピルが飲めない方の選択肢となるジエノゲストは、月経困難症や子宮内膜症の治療に使われていますが、副作用として吐き気や貧血、不正出血に注意が必要です。
副作用がみられたときはすぐ医師や薬剤師に相談が必要ですが、ピルがすでに体に合わなかった方の代替薬として選べる薬です。
比較的年齢が高い方や10代の方も服用できる保険適用の薬であり、子宮や卵巣を保護する作用があります。
月経や子宮のトラブルでお悩みの方は、主治医に相談してみてはいかがでしょうか。
監修者
院長
清水拓哉

経歴
- 杏林大学医学部卒業
- 筑波大学附属病院初期研修
- けいゆう病院後期研修
- 横浜総合病院などで勤務した後に開業
資格
- 日本産婦人科学会専門医
- 産婦人科内視鏡技術認定医
所属学会
- 日本産婦人科学会
- 日本産婦人科内視鏡学会
- 日本子宮鏡研究会
手術実績(通算)
- 腹腔鏡手術・700件以上
- 開腹手術・150件以上
- 帝王切開・300件以上
- 分娩(経腟分娩)・1000件以上